名古屋大学 研究データ管理・公開・利活用ガイドライン
令和7年3月25日 研究戦略・社会連携推進分科会 学術データ基盤整備部会
目次
1. まえがき
1.1 ガイドラインの位置づけ
名古屋大学は、研究と教育に関する学術活動によって生み出された知的成果を蓄積し、それを社会に還元することで、人類の福祉と文化の発展および産業の振興を目指している。この理念のもと、令和2年10月に名古屋大学学術データポリシー(以下、「学術データポリシー」という。)を策定し、名古屋大学における学術データの管理ならびに公開および利活用の原則を定めている。
本ガイドラインは、学術データポリシーに準拠し、名古屋大学における研究データの適切な取り扱いに関する指針を定めるものであり、名古屋大学の構成員の研究活動が円滑化され、研究成果の公開および利活用が促進されることを目指している。
本ガイドラインは、
- まえがき
- 研究の準備
- 研究の実施
- 研究成果の整理
- 参考情報
の5章から構成される
1.2 研究データ
本ガイドラインにおける研究データとは、研究活動を通じて取り扱うデータをいう。デジタルか否かは問わない。収集または生成したデータだけでなく、それらを解析または加工して作成したデータも含まれる。研究活動で取り扱うデータとして、「観測データ」、「試験データ」、「調査データ」、「実験ノート」、「メディアコンテンツ」、「プログラム」「標本」、「史資料」、「論文」、「発表予稿」、「講演資料」等がある。
1.3 適用範囲
本ガイドラインは、名古屋大学の構成員であって、研究に携わる者(以下、「大学構成員」という。)および名古屋大学(以下、本学)に適用する。
1.4 ガイドラインの見直し
本ガイドラインは、社会や学術研究を取り巻く状況の変化あるいは法的および倫理的要件の変化、名古屋大学の規程やポリシー等の改訂に応じて、適宜、見直しを行う。
2. 研究の準備
2.1 研究データ管理責任者の役割
研究データ管理責任者とは、研究グループ内の大学構成員のうち、研究データの管理、公開、利活用について統括的な権限と責任を有する者をいう。研究グループの代表者であるPrincipal Investigator(PI)が想定される。研究グループに必ず研究データ管理責任者を配置すること。研究データ管理責任者が本学を離籍する場合には、研究データを管理する者が不在にならないように離籍前に対策を講じること。
2.2 データ管理計画の作成
データ管理計画(Data Management Plan(以下、「DMP」という。))とは、研究データの保管、共有、保存等の管理計画をいう。研究データ管理責任者は、DMPを作成し、研究グループ内で保有し、必要に応じて適宜、更新すること。
DMPに記載する項目として以下が考えられる。なお、DMPを作成する際は、本ガイドラインの3および4を適宜、参照のこと。
【DMPに記載する項目】
- 研究データの保管(本ガイドライン 3.2)
- 研究データの共有(同 3.3)
- 研究データの保存(同 4.1)
- 研究データの公開(同 4.2)
- 研究データの利活用(同 4.3)
3. 研究の実施
3.1 研究データの管理
研究データの管理とは、データの収集、生成、解析、加工、共有、保管、保存、破棄等、研究活動の開始から終了までの研究データの取り扱いを定め、これを実践することをいう。
3.2 研究データの保管
本ガイドラインにおける研究データの保管とは、当該データを収集または生成した者がデータを保持し、研究活動で必要となる場合に利用可能な状態にすることをいう。研究データの亡失を防ぐために、定期的にバックアップをとること。研究データ管理責任者は、研究グループにおける研究データの保管場所を定め、DMPに記載すること。
3.2.1 情報格付け区分にあわせたストレージの選択
研究グループによる研究データの管理では、「東海国立大学機構情報格付け基準1」(以下、情報格付け基準)および「東海国立大学機構情報格付け取扱手順2」を遵守するため、研究データ管理責任者は、管理する研究データの格付け区分にあったストレージを選択すること。
3.2.2 大学構成員が利用できるストレージ
本学は、データ管理方法の選択肢として、表1に示すストレージサービスを整備し提供している。大学構成員がこれらのサービスを利用する際は、利用規程等を確認のこと。
表1 ストレージサービスに関する情報
サービス名 | 利用規程等 | 担当部署 |
---|---|---|
教育研究ファイルサービスNUSS3 | 利用内規 利用マニュアル | 情報連携推進本部(ITヘルプデスク) |
セキュア教育研究ファイルサービスNSSS4 | NSSS利用内規 NSSS利用ガイド | 情報連携推進本部(ITヘルプデスク) |
Microsoft 365(OneDrive)5 | Microsoft 365 (Office365)アプリ利用方法 | 機構アカウントヘルプセンター 情報連携推進本部(ITヘルプデスク) |
研究データ管理基盤 GakuNin RDM6 | 名古屋大学における GakuNin RDMスタートアップガイド | 情報連携推進本部(ITヘルプデスク) |
3.2.3 個人情報が含まれる研究データ
大学構成員は、研究データに個人情報が含まれる場合、個人情報保護法、その他の関係法令、規程7等を遵守し、個人の権利利益の保護に十分に配慮すること。研究データ管理責任者は、当該研究データが研究グループで適切に管理されるように努めること。
3.2.4 人を対象とする研究データ
研究データ管理責任者は、研究グループ内の大学構成員が人を対象とする研究を実施する場合、自身の所属部局の倫理審査委員会における審査、および部局長による承認を得ること。倫理審査に関しては、機構および大学が公開する「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する規程8」、その他所属部局に関連する規程およびウェブサイト等を参照し、必要な手続きを行うこと。大学構成員は、倫理審査時に提出された研究計画書の記載内容を遵守して研究データ管理を行うこと。
3.2.5 共同研究等における研究データ
研究データ管理責任者は、研究グループ内の大学構成員が共同研究等を行う場合、「東海国立大学機構共同研究規程9」を参照し、共同研究申請書および共同研究契約書の内容を遵守して、研究データ管理を行うこと。なお、秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement: NDA)を締結している場合、大学構成員は、秘密保持契約書の内容を遵守して研究データ管理を行うこと。
3.2.6 デジタル化されていない研究データの保管場所の決定
研究データ管理責任者は、デジタル化されていない研究データを保管する場合、当該データの特性を考慮し、デジタル化されているデータと同様に適切な保管場所を定めること。大学構成員は、当該データを識別できるように、付番や目録作成等の手段を用いて管理された状態を維持すること。
3.3. 研究データの共有
本ガイドラインにおける研究データの共有は、研究データを作成した者以外が利用可能な状態をいう。研究データ管理責任者は、研究グループにおける研究データの共有方法を定め、DMPに記載すること。
3.3.1 研究インテグリティ確保のための研究データマネジメント
研究データ管理責任者は、研究データの共有において、研究環境の健全性および公正性を保持すること。また、研究インテグリティを確保するため、所属機関や研究資金配分機関に対して、必要な情報の報告と必要な手続きを行うこと。なお、研究インテグリティとは、研究者および大学・研究機関等における研究の健全性と公正性をさし、具体的には、(1)安全保障輸出管理、(2)利益相反マネジメント等が挙げられる。
(1) 安全保障輸出管理
研究データ管理責任者は、海外の非居住者や特定類型該当者への研究データ提供がある場合、規程等10を参照のうえ、事前に安全保障輸出管理の手続きを行う必要がある。留学生および外国人研究者等の受け入れ、貨物(機材等)の輸出、技術の提供等、海外や外国人との接触の機会が発生した場合も同様である。
(2) 利益相反マネジメント
大学構成員は、特定の団体に対しての経済的利益(報酬、株式、研究費等)や職務遂行責任がある、あるいは、研究データの取り扱い(提供等)が大学の教育および研究の責任と相反する(利益相反および責務相反)場合、規程等11を参照のうえ、利益相反の自己申告を行う必要がある。
3.3.2 デジタル化されていない研究データの共有方法
デジタル化されていない研究データを研究グループで共有する場合、当該データの特性を考慮し、デジタル化されているデータと同様に適切な共有方法を定めること。
4. 研究成果の整理
4.1 研究データの保存
本ガイドラインにおける研究データの保存とは、研究成果としての論文の根拠データ等を研究公正に関する規程12等に従って格納することをいう。大学構成員は、当該規程を遵守して研究データの保存作業を適切に行い、保存を必要とする研究データを保存期間中に破棄しないこと。研究データ管理責任者は、研究グループにおいて保存が必要な研究データ、および、その保存方法を定め、DMPに記載すること。
4.1.1 研究データ保管システム
【学内限定】
4.1.2 デジタル化されてない研究データの保存方法
研究データ管理責任者が、デジタル化されていない研究データを保存する場合、当該データの特性を考慮し、デジタル化されているデータと同様に適切な保存方法を定めること。
4.2 研究データの公開
本ガイドラインにおける研究データの公開とは、研究データを作成した研究グループ以外の者が、研究データを入手できる状態をいう。研究データ管理責任者は、表2および表3を参照し、研究グループにおける当該データの公開の可否と方法を定め、DMPに記載すること。
4.2.1 研究データの公開および非公開のレベル別定義
研究データの公開・非公開のそれぞれに様々な形態が存在する(表2を参照)。研究データ管理責任者はこれらを参考に、公開・非公開とそのアクセスレベルを適切に選択すること。
表2 研究データの公開および非公開のレベル別定義
タイプ | アクセスレベル | 説明 | 対象者 |
---|---|---|---|
公開 | 一般公開 | 誰もがアクセスできるデータ | 不特定多数 |
限定公開 | 特定の条件を満たした者のみがアクセスできるデータ | 機関内、学協会の会員、ライセンス許諾者、セミナー参加者 | |
非公開 | 共同研究者以外は非公開 | 共同研究を行っている研究者(学外を含む)のみアクセスできるデータ | 共同研究者、NDA締結者 |
研究グループ以外は非公開 | 研究グループ内のメンバーのみアクセスできるデータ | 研究グループのメンバー | |
研究グループ内の特定のメンバー以外は非公開 | 研究グループ内のメンバーの中でも特定の条件を満たした者のみがアクセスできるデータ | 研究グループメンバーの一部 | |
完全非公開 | データを公開せず、収集または生成した者のみがアクセスできるデータ | 作成者 |
4.2.2 研究データの公開・非公開の決定にあたり考慮する点
研究データ管理責任者は、データの記載内容、諸規範、関係諸法令および諸規則等の制限(表3を参照)を考慮したうえで、公開可否を決定する。公開する研究データには、適切なメタデータを付与すること。なお、公的資金による研究成果としての研究データの公開では、「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方17」に記された「メタデータ共通項目」に沿った情報の提示が求められることがある。
表3 研究データの公開制限と考慮する点
制限 | 考慮する点 |
---|---|
関連する国際的規範、国内外諸法令による制限 | ・関連する国際的規範、国内外諸法令に抵触していないか |
所属する機関や部署、研究助成機関等の諸規則による制限 | ・所属する機関や部署、研究助成機関等の諸規則に抵触していないか |
研究分野および研究コミュニティの慣習による制限 | ・出版社、学会等の規則等に抵触していないか ・出版社、学会等の許諾が必要な場合に、許諾を得ていないか |
個人情報保護による制限 | ・個人情報保護法等に抵触していないか ・情報開示に関する分野ごとの方針を確認しているか |
共同研究契約および個人との契約による制限 | ・学内外の機関や個人と契約している場合、当該の契約により、 研究成果の公開手段が制限されていないか |
知的財産関係による制限 | ・特許、実用新案等を出願するまたは出願中の場合、権利の取得に影響はないか ・商業的な利用が見込まれるデータに該当しないか |
4.2.3 機関リポジトリの優先
大学構成員は、研究データの公開先として「名古屋大学学術機関リポジトリ」(以下、機関リポジトリ)を優先することが推奨される。機関リポジトリは、大学構成員による研究論文、学位論文、教材、研究データ等を収載し、それらはインターネット上で無償公開される。大学構成員は、機関リポジトリへ研究データの登録を希望する場合、「名古屋大学学術機関リポジトリ要項」および「名古屋大学学術機関リポジトリ登録要領18」を参照のうえ、本学附属図書館の学術機関リポジトリ担当宛に申請すること。
4.2.4 適切なデータ公開基盤の選択
大学構成員は、機関リポジトリ以外の情報サービスを利用して研究データを公開することもできる。当該分野における研究者コミュニティでの標準等を鑑みて、適切な方法を選択すること。大学構成員が、汎用リポジトリや分野別リポジトリ等の機関リポジトリ以外の情報サービスを用いる場合は、研究者の権利の保持を考慮すること。研究データの公開にあたって、当該データの利用条件および免責事項等を明示した文書(ライセンス)を付すことが推奨される。
4.2.5 デジタル化されていない研究データの公開方法
研究データ管理責任者は、デジタル化されていない研究データを公開する場合、当該データの特性を考慮し、デジタル化されているデータと同様に適切な公開方法を定めること。デジタル化されていない研究データは、現物をデジタル化する、あるいは、現物の所在等を示すメタデータを付与する等の方法でデジタル化することが推奨される。
4.3 研究データの利活用
本ガイドラインにおける研究データの利活用とは、公開した研究データからより多くの知的成果等を生み出せるように、研究データの利用マニュアル、来歴や用途の情報を付す等の方法により、データの価値を高めることをいう。研究データ管理責任者は研究グループにおいて公開した研究データを利活用に供する方法を定め、DMPに記載すること。
4.3.1 知的財産
大学構成員は、研究データが知的財産に相当する場合、東海国立大学機構の知的財産関連規程等19に従い対応すること。
4.3.2 教員データベースシステムと名古屋大学研究者総覧
本学は、大学構成員が機関リポジトリ等で公開した研究データの利活用が促進されるために、教員データベースシステム20を運用している。当該システムでは、「研究活動」の項目における「論文」「MISC」の業績の入力において、研究データの保存先に関する項目(「研究データ保存先URL」)を設けている。当該箇所に入力された保存先URLは、名古屋大学研究者総覧21に反映される。大学構成員は、本機能を活用して研究データの利活用の促進を図ることが推奨される。
5. 参考情報【学内限定】
1「東海国立大学機構情報格付け基準」(参考情報 5.1.1)
2「東海国立大学機構情報格付け取扱手順」(参考情報 5.1.2)
3「教育研究ファイルサービスNUSS」(参考情報 5.1.3)
4「セキュア教育研究ファイルサービスNSSS」(参考情報 5.1.4)
5「Microsoft 365(OneDrive)」(参考情報 5.1.5)
6「研究データ管理基盤 GakuNin RDM」(参考情報 5.1.6)
7「東海国立大学機構個人情報保護規程」、「東海国立大学機構個人情報保護施行細則」(参考情報 5.1.7)
8「東海国立大学機構における人を対象とする生命科学・医学系研究に関する規程」、「名古屋大学における人を対象とする生命科学・医学系研究に関する規程」(参考情報 5.1.8)
9「東海国立大学機構共同研究規程」(参考情報 5.1.9)
10「東海国立大学機構安全保障輸出管理規程」 「(輸出管理)学内手続きについて」(参考情報 5.2.1)
11「東海国立大学機構利益相反マネジメント規程」、「名古屋大学利益相反マネジメント規程」(同上)
12「東海国立大学機構における研究上の不正行為に関する取扱規程」(参考情報 5.3.1)、「名古屋大学研究不正防⽌策」(同上)
13 【学内限定】
14 【学内限定】
15 【学内限定】
16「研究データ保管システム操作手順」(同上)
17 内閣府. 「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」令和6年7月30日改正 関係府省申合せ. https://www8.cao.go.jp/cstp/metadatainstructions.pdf[参照:2025.02.28]
18 名古屋大学学術機関リポジトリ(参考情報 5.4.1)
19「東海国立大学機構知的財産ポリシー」(参考情報 5.5.1)、「東海国立大学機構発明等取扱規程」(同上)、「東海国立大学機構著作物取扱規程」(同上)、「東海国立大学機構商標取扱規程」(同上)、「東海国立大学機構成果有体物取扱規程」(同上)、「東海国立大学機構臨床検査等結果利用許諾等取扱規程」(同上)
20 教員データベースシステム(参考情報 5.5.2)
21 名古屋大学研究者総覧(同上)